風の中
夜半に到来した木枯らし一号。
落ち葉のカラカラと舞う乾いた音に、
風が次の季節を運んでくるのだなと、耳を澄ませていました。
もう何年も、長い夏の後、一瞬の秋を挟んで長い冬へ、という季節の流れに慣れかけていましたが、
今年は長い秋を堪能できていいな、としみじみ感じていたところ。
風が強く吹いている間は、
巻き上げられる砂埃が気になって、目を細めて視界が狭まることもあれば、
口を塞いで身構えることもあるかもしれない。
なにかの渦中にいると、
防御に精一杯で頑なになったり、
出来事の表層に囚われて、感情が独り歩きして迷い道に入り込んだり、
余裕のなさから生み出されるものに、あまりいいものはない。
けれど、風が去った後には、
ただひたすら頭上に広がる青空や、
陽射しを受けてきらきらと舞い落ちる葉っぱなんかが目に留まるようになる。
そういうものが見えるようになれば、
内なる泉から湧き出てくるものには、生命力を感じさせる何かがある。
何年も前のこと。
悩み、迷う日々にどっぷり浸かった私に、
「迷いであって、その想いに嘘はないのでは?」という言葉を差し出してくださった方がいた。
迷い=嘘、偽り、ということではないでしょう、と。
風の中に在って、
今はまだ、最善の答えを導き出せていなくとも、
悩み疲れる自分に愛想を尽かす日があっても、
それがちょっぴり長い時間になっていたとしても、
無駄な時間など、ない。
自分の気持ちに嘘をついているというわけではない。
目標や理想の定め方も、そこに至る航路も、時間の流れ方さえも、
自由に選び取っていけばいい。
北風だの寒風だのをやり過ごした後は、
誰もが、少し逞しくなった自分に出逢えると思います。